0921

「関口君、君は、20ヵ月もの間妊娠することができると思うかい?」 そんな煽り文句のポスターが貼られたのは、かれこれ2ヶ月程前の夏の初めの事だったか。 壁に掛かったカレンダーを見ながら、香ばしく焼けた食パンをかりりと齧る。 […]

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笑い皺

ずっと子供の頃、皺は老いの象徴だった。 綻ぶように緩んだ頬に、幾重にも刻まれた皺。 それが恐くて気味が悪かったことを覚えている。 だけど、いつだっただろう。 目の前にまっすぐに差し出された皺だらけのその手が、すごく奇麗で […]

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てんらい

ゆらゆらと揺らめく光の渦に、ほのりとした湿り気と柔らかさが混じりはじめる秋という名を持つ曖昧な季節。   しゃりりとくずおれるやけに乾いた枯れ葉の音が、哀れなほどに辺りに響き、ふと見上げた空の高さの眩しさに眼が揺れる。 […]

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あなたの時間

薄い、おそらく、明るい中で見たならば柔らかさを思わせる淡い暖色系の壁に、等間隔に設えらえられた間接照明からやんわりと落ちる光はほの暖かさを滲ませる淡いオレンジ系。 店内に流れる曲は、ヒーリングミュージック とまではいかな […]

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不香の花

香りもなく、鮮やかなる花弁も持たぬ花があるという。蜜さえ持たぬ儚き花は、どこか、この村に似ているとふと空を仰ぎ見た。 緩やかに流れる風にも、思わずきゅっと首を竦めてしまう、そんな容赦ない冷たさに自然と一枚余分に羽織ってい […]

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あなたが生まれた日

今年はラニーニャ現象のために、雪の多い冬になる。気象予報士たちの早い時期からの予想どおり、大地を覆う白い花びらは、暖冬と呼ばれた昨年に比べ、随分と早い時節に舞い降りた。しかし、年を明けたここ数日は、穏やかさを取り戻し、見 […]

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雨宿り

しとどに降る驟雨を見上げ、鮮やかに揺れる緑の眩さに眼を伏せる。緩やかな陽光を受けることのない緑葉はそれでも艶やかなまでの色を纏、梢の隙間から垣間見えるこごり雲の黒さと相まり、一層の輝きを見せる夏のひとひら。 じんわりと大 […]

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今、君に会いたい

夜の帳の降りた迷路のような裏路地を慣れた仕草で歩いていく。 夜といっても、まだ、20時になるかならぬかの宵の口。 だが、レギュラー番組の撮りが続くこの時節、忙しい忙しいと騒いでも、割合とスケジュールは把握しやすく、週に一 […]

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村と桜と進化論

ピバリピバリと小さな山間に響く甲高い声は春告げ鳥。 透き通るように高い空の中、ぽかりと浮かぶは白い雲。 うららかな日だまりは、翠葉を映しながらも幾重にも渦巻く金の色。 ああ、穏やかだ。 春は張ると言ったのは誰だったか。 […]

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