背中合わせの存在意義
幼い頃、母と父が離婚した。父親は家を出て行った次の日、3歳まで生まれ育った町を後にした。 それが最初。 母の仕事が変わる度、住まいが変わる。 それは小さな扉を開けるだけで、くるくる変わる世界のように目紛しく、息をつくほど […]
幼い頃、母と父が離婚した。父親は家を出て行った次の日、3歳まで生まれ育った町を後にした。 それが最初。 母の仕事が変わる度、住まいが変わる。 それは小さな扉を開けるだけで、くるくる変わる世界のように目紛しく、息をつくほど […]
抜けるような高い空に時折吹き抜ける風はとても青く、大地にそよぐ木々は夏の名残を思わせる程にあざやかで、ゆっくりと枯れ逝く一葉を戯れに大地に落としては、かさりと乾いた音を辺りに響かせる。 &nb […]
一年目の9/21、一周忌だと騒ぐ長瀬を太一が殴るのを見ながら全員で大騒ぎをした。 当然、酒はなし。 二年目の9/21、上三人が乾杯するのを羨ましげに見下ろしている二人に片目を軽く瞑ってグラスを渡したのは山口。 三年、四年 […]
空が抜けると言うよりは、果てのない空 と小さな呟きが草の香りを孕んだ風をふわりと揺らす。 気持ええなあ 久しぶりに見る青い空なのだ と城島は、僅かに眼を細めると、ぶらぶらと行き場のない両手両足を大きく広げて、ばたりと空に […]
肌に突き刺さるような日射しは、柔らかく揺れる夕闇にまぎれるような暖かさに姿を変え、ゆっくりと歩く足下に長く緩やかな影を映し出す。それでも、昼間の日射しを煌々と受け、哀れなぐらいに汗をすったTシャツに、前のボタンをだらしな […]
出会ったのは、まだ、中学生の時だった。 ドラマの中で見たことのある横顔が、ふとこちらを振り返る。 その瞬間、ふうわりと大気が揺れた。 柔らかな日射しの差し込む、だが、しかりと閉じられた空間。確かにここは四面四角なコンクリ […]
むっと顔を膨らませ、ぷいと横を向く。途端に、目の前の男はあからさまにため息をついて肩を竦めてみせた。 その所作に、全然、似合ってねぇよっと鼻を鳴らせば、男はぎろりときつい視線を残し、ふいっと背を向けてしまう。そんな二人に […]
お前、リーダーのこと好き? そう聞いて来たのは、マボだったか、太一君だったか、そんな昔の事なんて、すっかり忘れた。ただ、覚えてるのは、 「うん、大好き、超好きっすよ」 大きく頷いて、そう胸を張って応えた自分の返事だけだっ […]
漆黒に近い壁に包まれたアンダーグラウンド。 煌々と煌めく華やかな大都会と緩やかな沈黙に彩られた空間を遮るのは、ただ重厚な扉一枚のみ。 だが、この隔絶された小さな世界は、まったりとした大気に包まれ、疲弊した心をゆるりと癒し […]
藍の着流しに貝の口。 柔らかな髪を風に預けて、ゆうるりと長い影を落とす斜陽を背に受け、夏の宵を彩るようにからりからりと下駄が鳴る。 辺りを行く人波もなく、がしりとしたガタイの良い男は、袖口に手を預けるように、まだ、熱気の […]