Taichi & Nagase

泣きそうな笑顔に

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お前、リーダーのこと好き?
そう聞いて来たのは、マボだったか、太一君だったか、そんな昔の事なんて、すっかり忘れた。ただ、覚えてるのは、
「うん、大好き、超好きっすよ」
大きく頷いて、そう胸を張って応えた自分の返事だけだった。
だって、優しいじゃん。なんで?そう聞かれたから、素直に答えた。
いつだって笑ってくれるし、ええ子ォやなあって頭撫でてくれるよ、お菓子くれるし。そう言うと、お前は餌付けされたイヌかって起られた。えづけってなんだろうって思ったけど、犬は好きだからいいやって思ったのを覚えてる。
けどさ。
こつん、足下にころんとあった石を蹴る。
かっつん ことん、小さな音が道の上を転がる。
リーダーの笑ってるの嫌い。
そう言ったら、太一君が、へぇ、なんでだって唇をきゅっと上げながら聞いて来た。
「だって、本当はぜんぜん笑ってないもん」
ぷくりと頬を膨らませたら、くしゃりって髪を撫でられる。リーダーのと違うそれも、俺、大好き、と笑ったら太一君がそっかと笑ってくれた。
「あのね、リーダーの笑顔全部が嫌なんじゃないんだよ」
うん、と俺が座ってる椅子の横の机に、とん と勢い良く太一君が座った。怒られるよ そう言って、くいっとシャツの裾を引っ張ったけど太一君は知らんぷりで、 で、と小首を傾げた。
「皆と居る時は、ここんとこがふんわりするんだけど」
あのね、そう小首を傾げて、ぽんと両手で胸元を抑えたら、そうだなって太一君がまた、笑う。
「けどね、ロケ現場とかのリーダーの笑顔、嫌いなの」
ここんとこがもやってするから。
「なんで、そう思うんだろうな」
「なんでって、太一君もそうなの?」
一緒だね、って叫んだら、バアカ、一緒じゃねぇよ 全然 と額にデコピンされた。
「え〜、だって」
「俺は、あの人がなんでそう見えるか、もう、気付いちゃったからね」
 お前とは全然一緒じゃねぇよ、とどこか嬉しそうに笑った。
「なら、俺も、気付きます。絶対絶対早く気付いて、太一君を抜かしますからね」
ああ、ここまで考えて気がついた、あれ、太一君じゃん。
斜め前に、本を積み上げ、どかりと座り込んでいる男に視線をやると、目ざとく気付いたらしく、じろりと睨みつけられた。
「んあ?」
太一君は最近、やたらと読書量が増えた。
スポーツキャスターや司会とか、俺とは違って仕事の幅が、ものすごく増えたからだって言ってたっけ。
「俺、太一君抜かせました?」
ぼそりとそう言って、オレンジジュースの入ったグラスに手を伸ばすと、妙に重そうなハードカバーの向こうの顔が心底嫌そうな表情になる。
「お前さあ、本番前に良くそんなの飲めるな」
そう言う太一君の目の前にあるのは、最近良くテレビでCMをしているミネラルウォーターだ。
「まあ、そう言うたりなや」
好きなもんはしゃないやんな そう鏡の前に、俺たちが来る前から座っていた背中がひょろりと動き、やんわりとした笑みを頬に浮かべた。
胸の辺りがふんわりとする大好きな笑顔だ。
「そうっすよね」
笑顔につられるように、にんまり笑うと、目の前の太一君の眉がぐにゃりと歪み、はぁっと大きなため息が一つ溢れた。
「言っとくけどな、年季が違うからな」
俺とお前は、そうびしっと眉間に突きつけられた指先の意味がわからなくて、太一君?そう呼びかけたら
「ばあか」
と一言返された。
ああ、と口角をあげると、たく、とまた小さく呟くから。
「もう、俺だって立派な大人っすからね」
あの時のリーダーの笑顔の意味は、もう、ちゃんと分かってるんすからね。
「今度は、俺が守る番すから」
もうあの人に作り笑顔なんてさせないっすよ、と、どんと胸を叩くと、太一君がもう一度呆れたように ばあか そう、既に視線は本の上に戻しながらそう呟いた。
「太一君」
ばかじゃないっすよ、まじっすよ と言ったら、顔の向きは文字の上、視線だけをこちらに上げると言う超器用なポーズで、
「お前、同じ事山口君に言ってみな」
 言えるもんならな、 そう続いた言葉に、漸く背後からひしひしと投げかけられている重たい視線に気づき、ぞくりと体を震わせた。

LOVE STORY 5題

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