Jyoshima & Matsuoka

出逢った瞬間

LOVE STORY 5題

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出会ったのは、まだ、中学生の時だった。
ドラマの中で見たことのある横顔が、ふとこちらを振り返る。
その瞬間、ふうわりと大気が揺れた。
柔らかな日射しの差し込む、だが、しかりと閉じられた空間。確かにここは四面四角なコンクリートの部屋の中のはずなのに。
さざ波のように揺れた空気の中、自分を見下ろす琥珀の虹彩は、どこか人形めいた冷たさを纏い、その視線から逃れるように彷徨った瞳の中に日本人離れ下細く長く伸びた脚が、飛び込んで来る。
「新しく入った子だよ」
You 名前を言いなさい どこか遠くで聞こえた社長の声に、こくりと飲んだ唾液の音が頭の中に響き渡り、情けない程掠れた声が頭上高く自分の名前を告げているのが聞こえる。
「へぇ、可愛い子だね」
聞こえた声は、その外見からかけ離れるように、柔らかさが滲んでいたから、え、と上げた視界に広がる琥珀の世界。
「ええ恋しとぉか?」
君、と続いた言葉尻は、テレビの中でしか聞いた事のない西の方の音だった。
え、えとと大きく頭を振ると、
「なんや、自分、中学生にもなって、好きな子ぉの一人もおらんの?」
まさか初恋もまだなん?情けないなあ そう、続いた言葉に
「な、何言ってんのよ、俺、13だよ」
「そうか、ほんなら初恋ぐらいは経験済みか」
形を変えた虹彩は、銀色の猫の眼のように、にたりと笑い、
「恋はな、人を大きく成長させてくれるからな」
とんと、その大きな掌が両肩を包み込んだ。
温かな手、近すぎる距離にある吸い込まれそうな虹彩に、乾いた下唇を軽く噛み締めた。
「言われなくても、恋ぐらいしてるよ」
そう、今、出会ったこの瞬間から、
            俺は恋をしている。
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