春の雷-らい-
さくりと土に突き刺さる鍬の先、見る間にじわりと土の色が一段深くなる。 あれ、と小首を傾げるよりも早く、露になった項に落ちる天の涙。 ゆっくりと仰ぎ見た空は、ほんの少し前までは青い光を帯びとったのになあ、と不満気に肩をすく […]
さくりと土に突き刺さる鍬の先、見る間にじわりと土の色が一段深くなる。 あれ、と小首を傾げるよりも早く、露になった項に落ちる天の涙。 ゆっくりと仰ぎ見た空は、ほんの少し前までは青い光を帯びとったのになあ、と不満気に肩をすく […]
まだ、メンバー全員が揃わぬ静かな楽屋。 なあ、背中越し、呼吸のように溢れた微かな声に、山口は音も立てずに手の中の携帯のブラウザを閉じた。 「何?」 だが、それに気付かない声の主は、また、波か? と笑っているらしく小刻みの […]
ぎしりと軋む椅子に背を預け、あ〜あ、と小さく溜め息をつく。 新曲の発売に合わせて、どっと増えるイレギュラーの仕事に、変わる事なく訪れるレギュラー番組。 全く持ってありがたいのかそうでないのか、微妙と言えば微妙な気分。 そ […]
今朝、目を覚ましたら世界が一変していた。 なんて、SF的なことは起こっていなかったけれど、なんとなしに点けたテレビの画面に滔々と映る世情に、僅かに眉を顰めた。 ふうわりと細く透けた紫煙がふらりと薄曇りのそれでもほのかに青 […]
「夏休み ですか」 へらりとあまりにも頼りない紙切れを一枚受け取りながら、城島は、そうよ。嬉しいでしょ と応える女性の前で、はあと曖昧な返事を返した。 「夏休み、企画 とかやのうて、ですよね」 案の定薄っぺらなそれは、そ […]
どこか不器用なまでに、それでも己のスピードを変えることなくゆっくりと坂を上って行く一人の男。然程年嵩には見えないが、どこか億劫気に坂を僅かに上肢を左右に揺らしながら歩く姿は、言葉にしたら「えっちら、おっちら」と言ったとこ […]
夕闇よりも一段深い、だが瑠璃と呼ぶにはまだ少し早い夜の影で、ほとりと蛍火よりも淡い光が辺りを照らす。 じじじじ とそれは紅い燐光が発火するほんの僅かな明滅に過ぎなかったが、軽く歯に挟み込んだ煙草は軽く上下に揺れながらも、 […]
ひゅっと頬を霞める風に、城島は黒斑の眼鏡の奥でまだどこかぼんやりとした光彩を瞬かせながら首に掛けたタオルに埋もれるように首を竦ませた。 うすぼんやりとした靄のように薄い色をした高すぎる空は、あと数時間も立たぬうちに目を射 […]
天を彩る綺羅星が映える宇宙は冬の色。 すでに天は瑠璃になり、ほっと零れる息も白さを増して、行き交う人もまばらな時刻。 手の中でころりと転がるペットボトルの温もりに、ぐるりと巻き付けたマフラーの隙間に垣間見える口角がゆるり […]
初めて貴方に誕生日を祝ってもらったのは、もうかれこれ何年前になるんだろう。 掌の画面の中、小さなケーキのマークに頬が緩む。 そう、あれは指をゆっくり折りながら数える必要もない程に鮮やかな記憶。 夜も大分更けた時刻。 廊下 […]