TOKIO

10秒の攻防

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今朝、目を覚ましたら世界が一変していた。
なんて、SF的なことは起こっていなかったけれど、なんとなしに点けたテレビの画面に滔々と映る世情に、僅かに眉を顰めた。
ふうわりと細く透けた紫煙がふらりと薄曇りのそれでもほのかに青い空に白い筋を描くように立ち昇る。
それを逆さに辿れば、壁をぐるりと回った向こう側、当人は隠れているつもりがあるのかないのか、夏のもたりとした風をまとわりつかせた細身の肢体が現れる。
曇っているとはいえ夏の熱を孕んだ手摺は熱いだろうに、上肢を預けるように頬杖をついた横顔はどこか物憂げに茫洋とした風情で空を見上げている。
「しげ」
ここまで足音を潜ませる事もなく歩いて来たのだから、山口の存在には気がついていてもおかしくないのだが、城島は素知らぬ振りを決めこんだまま煙草を吹かしている。
周囲の誰を憚る事もないのだが、そのグレーの空間はどこか寂し気で。
「どないしたん。自分がこんなとこ来るやて」
掛けられた声に振返るのは、やんわりと細められた眼。
「あいつらが煩いからさ」
逃げてきた、そう言うと、煙草を銜えたままの口角が綺麗な弧を刻む。
だからさあ、やっぱ彼女んとこでしょ 扉を開ける前から聞える妙にテンションの高い声に、最近とみに忙しかった弟分も、漸く一息つけたらしいな山口はうすらと笑みを浮かべる。
逆に、暫くの間は、テレビドラマが詰まっている他のメンバーの方が時間に追われる日々を過ごしてはいるのだが、今朝も朝焼の紫を帯びた光に誘われるように波と戯れて来た男は、疲れも見せずにノブを押し明けた。途端に、モノトーンの世界が鮮やかな色彩を帯びて、怒濤のように押し寄せてくる。
「おはようっす」
元気だねお前等 と肩に掛けていた鞄を勢い良く壁際に放り投げる山口に向かって、おはよ〜兄ぃ、ぐっさん 朝から元気なのはどっちだよ と様々な呼びかけが返ってくるが、唯一人、山口を呼捨てにする存在の声がない。
「あれ?まだ?」
いつもならば、メンバーの誰よりも早くに楽屋入りしている男の声が聞こえない事に小首を傾げる。さしものあの人も、某国営放送のドラマ撮影、しかも毎朝放送と言うタイトなスケジュールのドラマの入りは、主役ではないものの時間に余裕がないのかと自然に苦笑が浮かぶ。
「あ〜、あの人なら、上」
国分の呆れたような口調を補うように、これよこれ、と指を二本立てて煙草を吸う仕草をするのは松岡、なるほどねと納得すると山口は、最近禁煙増えたもんなあと呟きながら、携帯片手に傍らの椅子を陣取った。
「俺だったらやっぱあれかなあ、ギター持っていくような気がするっすよね」
「何言ってるんだよ、火事騒ぎの時にリモコンもって逃げたような奴がそんな行動とると思うか?」
「お前は、包丁一式持ってきそうだよな」
流石にドラムは担いで行けないか〜 等と揶揄するような口調で聞える声に小首を傾ぐ。
「じゃあさあ、ぐっさんはそん時どうします?」
あのなあ と唐突に振返った長瀬に山口は僅かに肩を落としてみせた。
「何の話だよ。一体」
「貴方がさ振ったんだって?」
あの話題。と弟たちが姦しいまでに騒ぎ立てていた会話の内容を思い出したのか、軽く肩を竦めると城島に逆らうように背を手摺に預けた。
「ん? あ〜、あれなあ。でも僕が言うたんは10秒あったらどないする言うことやねんけどなあ」
10秒? と首だけをぐるりと回して繰り返した山口に、おん、10秒と城島はフィルターだけになった煙草を携帯灰皿の底にぐずりと押しつけた。
「緊急地震速報言うたかな」
テレビでやっとったんよ そう言いながら、指先はすでに次の煙草を探るようにポケットの中を蠢いている。
「『伝達速度の速い初期微動(P波)を震源地付近で感知し、伝達速度は遅いが揺れの大きい主要動(S波)が到達する前に、各地で予測される震度などを通知する』やったかな。つまり通知されてから、大地震が自分を襲うまでの10秒間な」
ああ、あった とくしゃりと潰れたパッケージから取出された白い筒状のものは幾つもの皺を刻み込み随分とくたびれていたけれど。
「それ見つけるのですでに10秒過ぎてんだけど」
くくっと喉の奥で笑いながら指をさせば、せやねんなあ といとも情けなさそうに表情をくしゃりと歪めて。
「テレビでもな、病院やったら、手術台から危なそうな計器やらを押しのけて終わりやし、家でも自分の後ろにあるソファの上に逃げるのが精々やったわ」
「でもまあ、そんな火事の元は消せるよね」
かちりと音をたてながら掌を煌と照らす炎が じじと小さな紙を黒く焦しただけで姿を消す。
「二次災害は防げるいうことやね」
不意に伸びてきた指先が火のつく事のなかったくたりとしたままの煙草を取り上げるとそのまま、自分の口に銜えさせると勢い良く息を吸う。
「火なしで吸うて美味いか?」
特に味はしないけどさ、煙草を返す事もせず、ゆるりと反り返った背に従うように逆さまになった状態の顔がくるりと振返る。
「貴方ってさ、マジ最後の10秒って言われたら、煙草吸ってそうだからさ」
ちょっと邪魔してみました と悪びれる事のない笑みに城島は、口角を歪めるように苦笑を浮かべる。
「したら、僕は最後の一本も吸えんいうことかいな」
そのまんま背を手摺に預けたままずるりと滑るようにして、どこかひんやりとしたコンクリートの床に並んで腰を下ろすと、改めて取出した煙草の先に火を点ける。
「せやけど、いくら10秒後に地震が来るって言われてもなあ」
「草ナギの映画みたいな状況じゃ意味ないって?」
その言葉に、そうそうと笑いながら、思い出すように小首を傾げながら、そう言い出したんは長瀬やったかな と空に溶けるように呟いた。
「だって、日本沈没っすよ」
いっくら1時間前に聞いたって無理っしょ と彫りの深い面立ちに深い皺を刻み込むように長瀬が口をへの字に結ぶ。
「だよなあ。それに俺等って、何時何処にいるか、結構読めねえとこあるじゃん」
確かにロケや撮影の日取りは事前に決まってはいるが、天気次第、先次第という感じで、その日程は梅雨空のように不安定なのだ。
「傍に居たいって相手が居ても、1時間でいける距離範囲じゃない確率めちゃくちゃ高いんじゃない?」
「そしたら、やっぱ電話するとかかな」
じゃあ、誰に電話するって事になったんやけどなあ、と円形の煙をぷかりと空に吐き出した。
「まあ、朝、テレビ点けたら、北朝鮮のテポ ドンやスカッドミサイルが発射された言うて大騒ぎしとうようなご時勢や」
それでも、顔色を変えることなく仕事に向かう日本人はある意味、笑える程に危機意識の低い人種ではあるのだけれど。
「家族や、否、恋人や、て言う話になってな。僕やったらて、ふと考えたん」
ちりちりと赤く燃える煙草が尽きるよりも短かい時間。脳裏に浮かぶのは、やはり、ありふれてはいるが老いた母親の笑顔かと。
「ま、当然っつったら当然だと思うけど?」
時に恋人のように母の事を語る目の前の男が何れ程母親を、家族を大切に思っているかなど今更の事だ。ならば、有事の折りに誰よりも母の事を思い出す事になんの不都合があろうや。ましてや、結婚もせず、今は恋人もおらぬと笑う男に。
「せやねんけどな。次に思ったんが、自分等やったんよ」
けどなあ、と今度は真っ直ぐに立ち昇るやけに細い煙の跡に、山口は煙草を振り回しながらその後を追う。
「電話、でけへんねんなあ て思た」
「でけへんってどう言う事だよ」
あ、消えた 多愛もない現象に見切りをつけて傍らを振返れば、二本めの煙草がすでに灰皿に押し付けられるところだった。
「やって、10秒は冗談としても、考えてみ」
「やっぱ、恋人でしょう」
女友達でもいいけど、そう眦を細くして、嬉し気に答えたのは松岡だった。
「ああ、そうっすよね」
大げさな程に大きく頷いて、携帯のメモリを探るのは長瀬の大きな指先。
「やっぱ。すぐ掛けられるようにしてた方が良いっすよね」
「後はおふくろかなあ?」
アンタもそうなんじゃない そう断定のように同意を求めてきたのは国分だった。
せやねえ、そう言って曖昧な微笑の城島に、だよねと勝手に納得をすると、後はさと目の前で盛り上がって行く背に小さく溜め息を零した。
「松岡は一人息子やし、女友達もようさんおる。長瀬や太一は、一人っ子ちゃうけど長男やん」
友だちもぎょうさんおるやろし とへらりと笑みを浮かべて。
「僕が電話してしもうて、あいつらが連絡とらなあかん大事な人と繋がらんようになったらえらいことやもんな」
それがほんの少し寂しかったんよ、と照れくさそうに、鼻の先が揺れる。
「今更ながらにTO KI Oに依存しとう自分に気付いたいうか、なんというか」
情けないわな と眦に刻まれた皺に浮かぶ影の濃さに山口は肩を竦めてみせた。
「TO KI Oへの依存度なら、貴方一人だけじゃないでしょ」
俺だって と言い掛けた言葉をゆっくりと揺れた頭が否定する。
「自分は、TO KI Oなくなってもサーフィンがあるやん。家も立てて自分の居場所をしっかりと持っとう」
松岡や長瀬も、俳優として確固たる自分の存在を見つけとうし、太一かてそやろ と。
「TO KI Oがあるから、安心してピンで活動できるてあの子らは言うけど、つまりは、TO KI Oやない場所でも、あの子らは存在できる言うことやねん」
でも、僕はちゃうから、と何処か自嘲的なまでのアルカイックな笑みになる。
デビューしてから、ただひたすら、弾き続けてきたギターはバンドTO KI Oがあっての事やし、テレビの中で演技するよりも数多く社長と繰り返してきたディスカッションは如何にTO KI Oを育てて行くかがメインやった。
つまりは、自分のすべき事の目の前すべてにT O K I Oが存在するねん と。
「僕はTO KI Oがあるからここにおる」
「しげ」
視線を僅かに反らすと、ああ、話がずれたなと作り上げた笑みに山口は無意識に伸ばしかけた指をきゅっと握りしめた。
「それに、なんや長瀬には最近嫌われとうしな」
電話なんかしたら、叩き切られそうやからなあ とからりと言うと、そろそろ戻ろかとゆうるりと伸ばした両手で伸びをする。
「俺にしてくりゃいいじゃん」
「はい?」
そのまま立ち上がるためによっこっらしょと両膝についた手の動きがぴたりと止まる。
「え〜と、何を?」
「だから、電話」
その手首を掴むと山口はそのまま元居た位置に城島を引っ張り降ろすように座らせてしまう。
「電話て、自分」
抗う事なくぽすりと床に座り込んだまま城島はひざ頭を揃えるようにして山口を振返った。
「貴方が言ったんじゃん。松岡は一人子で、長瀬と太一は長男だって」
「言うたよ。言うたけど」
「俺、一人子じゃないし、長男じゃないからさ」
真っ直ぐに向けられた満面の笑顔に、城島は言葉の裏を探るようにぱちぱちと二度程瞬きを繰り返した。
「けど、自分かて電話する相手はようさんおるやろ?」
「まあ、お袋はさ、俺が電話しなくっても兄きや弟がするだろうし、孫もいるんだぜ」
俺からの電話なんて鼻っから期待されてねぇよ とふふんと笑う。
「確かに友だちは多いけど、わざわざ、俺からの電話を待ってる奴は、幸か不幸かいないと思うし」
目の前でふるりと揺れる琥珀の虹彩以上に気を揉む存在等ありはしない。
「俺だってメンバーのことは気にかかるけどさ、他のメンバーに掛けたら迷惑なんでしょ。貴方の弁で行くとさ」
なら、俺で我慢しときなよ とズボンの尻のポケットに突っ込んであった携帯を取出すと、小さな液晶画面の上に表示されるのは『シゲ』の二文字。
「貴方専用に回線オープンしとくからさ。遠慮なく掛けて来て、貴方は今の居場所を教えなさい」
それですぐ切る と通話オフボタンをプチと押す。
「教えなさいて、教えてどないすんねんな」
意味あらへんやん ソレより少しでも話してくれたらええのに と照れを隠すためか、幼子のように剥れた表情でふいと拗ねてみせる。
「心配しなくても、電話切ったらすぐに貴方んとこ駆け付けたげるから」
「あ、阿呆か、自分」
10秒やで10秒、一二三、ほら、もう終わりと腕時計の秒針を突つく指先が小さく揺れる。
「走ったら100mは無理でもさ、70mぐらいは近付けるじゃん」
だが、自信たっぷりの言葉に、城島は微かに唇を開くと、阿呆 とかけそい声をぽつりと落とす。
「それに、10秒で貴方の足元が崩れるなら別だけどさ、貴方はそこに居る訳でしょ、一人にしとくと確実に帰宅遭難者に陥るだろうから、迎えに行くわ」
だから待ってなよ、と目の前でひょこりと揺れる黒髪を厚く大きな掌が包むようにぽんと叩くから。
「ほんま阿呆やね自分」
と空気に滲むような微笑がほろりと落ちる。
「じゃあ、あれだね、山口君との電話が切れたら、俺んとこ電話してくりゃいいよ」
突然空気を破るように、頭上から不意に振って来た台詞に、顔を見合わせた二人が揃って声の主を振返った。
「太一?」
「おま…」
「仕方ないでしょ。アンタさ、電話切れたら山口君が来るまでに、ちょっと一服とかって煙草吸いそうじゃん。それが原因で、火事でも起こってみなよ」
俺等のリーダーがよ?そんな不始末しでかしたら世間様に顔向けできないでしょ と微かに赤らんだ鼻先を横に向け、国分がぐいと口角をきつく歪めた。
「仕方なくだからね、仕方なく」
俺等、TO KI Oなんだからさ、ほっとくわけには行かないだけだからさ とこちらを向こうとしない赤い頬は、素直じゃない4男を重い出させ、城島は、おおきになあ とその微笑ましさに頬を綻ばせた。
「それってずるっすよ?太一君」
よっと、小さな掛け声と共に、城島の隣、山口の真逆の位置に座り込んだ国分の背に、拗ねたような低い声が勢い良くぶつかる。
「何がずるいんだよ」
あ〜っと返されるのは語尾上げ状態の半分威嚇したような低すぎる声。思わずぴたりと足を止めた松岡の傍らで、気づく様子もなく国分の顔を覗き込んだ長瀬が、
「だって、10秒ないんすよ。なのに太一君に電話したら俺等リーダーから電話貰えないじゃないっすか」
ずいと勢い込んだまま言葉を続ける。
「えっと、長瀬?」
「リーダー、俺にも電話くださいよ。そしたら、俺もぐっさんに負けないぐらい一所懸命、飛んで行きますから」
って、お前等どっから聞いてたんだよ、という内心の突っ込みは今は傍らにおいて、山口がにまっと口角を上げてみせた。
「けどさ、長瀬、お前最近シゲと話合わないんじゃなかったっけ?」
確か、気まずいとか言ってなかったか、そう綺麗な弧を描く眼に、長瀬は思わず、うっと後ろに一歩後じさる。
「それは、だって…」
俺だって、もう大人なのにリーダーが、その としどろもどろに呟く末っ子に、
「シゲさっき落ち込んでたぞ。お前に嫌われたあって」
被せるように追い打ちをかける。
「ちゃうて、ぐっさん」
自分意地悪いわ と唇をへの字に結んだ城島の両肩を掴んだ長瀬が、嫌うなんてわるわけないじゃないですか と彫りの深い顔を歪めた。
「リーダー、俺だって、リーダーから電話欲しいっすよ」
「まあ、今際の際の電話やったらなあ」
いくら、会話がのうても掛けた方がええかもしれんなあ とその長瀬の泣きそうな表情に思わず、苦笑混じりになる。
「アンタ、いつから死ぬ話になったのよ」
だが、100mぐらいずれた城島の言葉に律儀に突っ込みを入れたのは国分の視線を避けるように立っていた松岡だった。
「それにさ、そんな時に会話がない電話なんてしたら、やっぱりこの人煙草吸い出すじゃん」
わかる?そしたら意味ないんだよ、電話して来いっていった と国分が鼻先をへんと鳴らす。
「太一君とリーダーよりは、俺とリーダーのが絶対会話あります!!」
「甘いね、お前」
最近のライブでの俺等見てないの? とぐるりと城島の肩に腕を回して、ね といとも可愛らしく求める同意は、同意と言うよりも視線による脅迫に近い。尤もそれが城島に効くかどうかはどうかはさておき。
「せやねえ、太一とかて最近電話ようするし」
そんな仕草に笑いながらも、微かに首肯すると、そのまま逆サイドの山口を振返る。
「ぐっさんとは、今更やしなあ」
「だったらさあ、兄ぃの電話の後、リーダーに俺等が掛ければいいんじゃない」
ぽんと両手を叩いた松岡の台詞に、ぎりりと上がった三白眼が睨みつけるが、
「あ、それいいっすね」
そしたら、かかってもかからなくても平等っすよね、と長瀬が嬉しそうに賛成する。
「わかったよ。民主主義は多数決ってことで」
言うが早いか、三人の掌に現れた携帯の姿に、城島は何するん?と琥珀を大きく瞠いた。
「良かったね、貴方、しっかり愛されてるじゃん」
その間にも、ぴぴっと動き出した親指に、山口がぽんと城島の肩を叩く。
「そういう問題か?」
すでに苦笑というよりは諦観が滲みでた笑みと共にがくりと力が抜けた城島のポケットの中で携帯が早く早くと軽やかな音楽を奏ではじめた。
「はい」
それでも律儀に通話ボタンを押した城島の声に、はあ、と落ちた吐息の中、三人が同時に悔しそうに己の携帯の液晶を睨みつけたが。
「あれ?マボじゃないの?」
と長瀬が右隣の男を振返り、
「太一君でしょ?」
松岡は目の前にしゃがみこんでいる男を見下ろした。
「って、俺のは繋がってないぞ」
訝し気に見合わせた視線はそのまま城島の向う側でにこにことした笑顔の男に向けられるが、山口は軽く首を振って両手をパアにして見せた。
そして、6つから8つになった視線が城島の手の中でゆっくりと折り畳まれて行く携帯に向けられる。
「長瀬、自分、ここに来る前誰かに会わんかったか?」
立ち上がり様ポケットに携帯を滑り込ませながた城島の、自分よりも頭一つ分低い顔を見下ろして。
「あ〜、えっと、ゲストの方が来られたんで、そろそろスタンバッてくださいって」
マネが と続く言葉は、怒りを薄らと孕んだような視線に尻窄みに空に消えて行く。
「ほな、行こか」
泣いとったでマネージャー と通りすがりざま、宥めるように触れた掌に、はいと小さく笑みを浮かべた長瀬に山口は苦笑を滲ませる。
「どないしたん?」
ぽんと頭に触れて来た掌に不思議そうな表情が振返り、なんでもないと山口はやんわりとした微笑を浮かべた。
TO KI Oへの依存度が違うと言う貴方の言葉にそれはそうかもしれないと確かに思う。
TO KI Oはかけがえのない存在だけど、自分達が依存しているのは、それは城 島茂という存在なのだから。
肩が触れるぐらいの距離で笑い合う三十路二人の背後で、10秒の回線の権利を巡っての攻防はまだまだ終わりそうにない。
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