「この間のソーラーカー見ましたよ」
珍しくメンバーうちでも早い時間に楽屋についていたらしい長瀬が、時間少し前に漸く腰を下ろした山口の姿に、にこりと振り返った。
「あ?」
「ほら、高知っすよ」
俺との後、リーダーとだったじゃないすか、と右手に持ったゲームのコントローラーをぐるりと振り回す。
「ああ、あれね」
その言葉に、ああと納得したように頷くと山口ははぁと小さく伸びをする。
「珍しいっすね」
「何がや?」
髪のセットを終えたらしい城島が、鏡の前からブラシを片手に山口の隣の席に移動してきた。
「リーダーとのロケの時って、ぐっさん、助手席が指定席みたいになってるじゃないですか」
ほら、前日ロケはリーダー運転してたし、という声に、あの、3長瀬の尾長鶏の時な と城島がけらけら笑う。
「あれ、泊まりだったの?」
そう話に乗るように聞いたのは、ゲームの相手を失った国分だった。
「せやで、久しぶりに、ぐっさんと泊まりやったん」
羨ましいか? と嬉しそうに答えるのは城島の方だ。
「ああ、あん時は」
となんでっすか?と目の前にずりと出てきた長瀬に苦笑を浮かべたものの、山口は傍らで、整髪し終えたはずの髪をまた弄んでいる城島の横顔にちらりと視線を送ると、まあなあ、と鼻先をこりと掻いた。
「前の晩、この人、ちょっと無理させちまったしさ」
やっぱり、運転は無理でしょ と何処か照れくさそうな表情で小さく笑う。
「無理って?」
それに反応するように聞こえたのは、つい一瞬前まで、メンバーの会話にぴんと聞き耳を立てながらも、表面上は都内のバーの特集記事をひしと眺めていた松岡の声だ。
「ほんまやで、あんだけ嫌やて、僕言うたのに、こいつしつこうてな」
だが、その声が耳に届かなかったのか、城島がため息まじりに山口をじろりと睨む。
「まあさあ、しつこかったのは認めるけど」
久しぶりだったから、つい俺も頑張っちゃったしね と嬉しげに綻ぶ山口の満面の笑みに、城島もまた、しゃあないなあと口元を綻ばせ、ほんまあほやん とどこか面映げに微笑を浮かべてみせた。
「アホはないんじゃない。貴方だってノッテたし、最後はアナタ、自分からモットって」
「そらまあ、なんだかんだ言うても僕かて好きやからな」
顔を見合わせて、からからと笑う山口と城島の横顔に、松岡は顔をわずかに引きつらせた。 ナニが好きって?
「いいなあ、ぐっさん、ねぇ、リーダー、今度俺としましょうね」
「長瀬か、おん、ええで、せやけど、自分も結構しつこいからな」
おっちゃん、ついていけるやろか そうくしゃりと城島の手が目の前でひょこりと跳ねる黒髪にゆったりと伸ばされていく。 ナニ?アンタ長瀬と一体何をするわけ?
「長瀬、ソノ気なのはいいけどさ、程々にしてやれよ。でないと、お前にまじでつきあうとこの人壊れちまうぞ」
こう見えて、結構柔いからね とにまりと口角を上げた国分の趣味が良いとはいえない笑みに、松岡はふらりと立ち上がった。 その一瞬後、バタン、一見静かに、だが己の存在を誇示するかのように閉められた扉。
「松岡〜、あんま遠く行ったらあかんで」
すぐ撮り始まるで、と背中に掛けられた城島の声は、傷心の彼の耳に届いたのか届かなかったのか。
「ほんっとあいつってからかうとオモシレェよな」
っていうか、あいつ、この二人の事、マジ一体どんな関係だと思ってるんだろうな、 ぽてりと頬杖をつき、閉まった扉を見つめる国分の傍らでは、二人で何飲んだんすか?酒買って帰る時間なかったんすよ と二人が泊まりの晩に浴びるほど呑んだらしい酒の話に花が咲いていた。