Jyoshima & Nagase

たった一言

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小さい頃から誕生日に一人だったことなんてなかった。
ガキの頃は、誕生日だというとほんのちょっと前から自分の誕生日でもないのにぎゃあぎゃあうるさい姉と、朝からケーキは何にしようという母親にまとわりついて夕飯のごちそうを強請ってたし、事務所に入ってからは、同じぐらいの友達が顔を合わせたら、おめでとうって言ってくれた。
デビュー後だって同じだ。 あの頃はまだ一人っきりの仕事なんてなかったから、誰かしらメンバーがいつも一緒で、『おめでとう』って笑いながらプレゼントをくれたから。 だから。 初めてだったんだ。 誰にも会えない一人っきりの誕生日。
確かに、スタッフの人やマネージャーはおめでとうって言ってくれたけど、でも、何か違うんだ。通りすがりに『おめでとう』は俺にじゃなくても誰にでも言う言葉だから。
だから。 冷蔵庫を開けても、イチゴたっぷりのケーキなんて入ってなくて、埃のつもったレンジの上に、あったかいカレーの入った鍋が乗ってるはずもなくて。
真っ暗な部屋の中、荷物を放り出して両足を投げ出した瞬間に、鼻の奥がつんと痛くなった。
だから。 手のひらの中でなった小さな携帯電話に表示された名前を見た瞬間
「ひでぇよぉ」
とぼろぼろとこぼれ落ちた涙のままに、長瀬です も もしもし も言わず文句を言った。
いつもなら挨拶には厳しい人なのに、今日は苦笑まじりで、しゃあないなあって聞こえるのんびりした声。
「だって、リーダー、俺、俺」
『おん、今日一日ようがんばったな、お疲れさん』
「ちが、違う」
聞こえるのはすごく優しくて、でも、一番聞きたい言葉じゃなかったから。
でも、言いたいことが言葉にならなくて、ただ、ぶるぶると犬のようにかぶりを振り続けた。
『わかっとうって、せやからな、長瀬、すまんけど、扉開けてくれるやろか?』
その言葉に、えっと問い返す間もなく、耳に聞こえたチャイムの音。 手に持っていた携帯を切るのも忘れてぎゅっと握りしめたまま、もつれそうな足を踏んばって、がちゃりと開いた扉の向こう側。
「長瀬、お誕生日おめでとうさん」
ケーキ一緒に食べよかあ と差し出された真っ白な箱の向こう側ふうわりとこぼれたあったかな笑顔に、ぐしゃぐしゃの泣き顔のまま抱きついた。

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