今年のツアーで、ご多分にもれず始まったMC最中のリーダーいじりの中、『俺はプライベートでもリーダーって呼ぶね』そう嬉し気な表情で口火を切った松岡の言葉を受けて、山口が言った。
「俺はプライベートではシゲ、シゲって」
録画していた某バラエティ番組を見直しながら長瀬は小首を傾げる。
「あのさあ」
背後では、サッカー雑誌を捲る国分と、手書きの譜面を前に音を出す事なく弦を押さえながらメロディを追っているらしい城島の姿。
前が押しているらしい松岡と、長かった夏休みが終わり、暫く俺たちの季節がやってきた と両拳をぎっと握り締めていたサーファーこと、山口の姿はまだない。
「何や?」
競馬場の親爺よろしく耳の間に挟んでいた鉛筆で楽譜に何か書き終えたらしい城島が長瀬の声を拾って、振り返る。
「ぐっさんはさあ、仕事上では、リーダーの事、リーダーって呼ぶんですよね」
「ん?そうやけど」
「でもさあ」
軽く唇を尖らせた長瀬の指先の向う側では、三十路二人が嬉し気に陽光眩しい海岸線を走る企画が流れている。
その中で、タイミング良く繰り返されるのは、『シゲ』と誰憚る事なく呼びかける山口の声。
「あ〜」
ぽりぽりと鼻先を掻きながら城島が苦笑を浮かべる。
「しゃあないわ、それは」
「なんでですか?」
「これ、長いやろ」
「長いっすねえ」
この番組は、TO KI Oとして正式デビュー後すぐに始まった、10年を超えて続く所謂長寿番組の部類に入るものであり、TO KI Oの歴史でもあると言っても過言ではない。
「でな、前はともかくここ数年の企画考えてみ」
メインを張るのは村とソーラーカーやと城島が綺麗なアーモンドアイを綻ばす。
「ですね」
「僕と同じぐらい、いや、それ以上に村におって、車走らせとうんは、山口やろ?」
「はい」
「もうあいつにとって、D○SHは生活の一部やし、スタッフは家族みたいなもんで遠慮がないんよ」
「そ、仕方ねえって事」
何処から聞いていたのか、ついと一言だけ言葉を挟むと、国分は画面をちらりと眺めて深々と溜め息を零し、軽く頭をふって再び雑誌へと視線を戻した。
「じゃあ、ぐっさんにとったら○ASHはプライベートの部類って事っすか?」
「ま、そういう事になるんかなあ」
答えに成りきらぬ応えを返した城島はそこで話を打ち切るようにぽろん と弦を鳴らした。
そっか、プライベートだから仕方がないのかと再び画面へと没頭しながらも長瀬は大きく頷いた。
でも、そしたらプライベートと仕事の境目はどこにあるんだろう と言う疑問が頭を擡げたのはほんの一瞬の事。
仕事上の顔よりも、一層中の良い上二人の姿をうらやましいと思う長瀬の疑問は長く続く事はなかった。