Taichi & Nagase

-->

ごそり、ごそりと先ほどから傍らで蠢く男の影に、国分は小さくため息をついて文庫本から視線を離した。
太腿の辺りにぶつかる膝が痛いようなくすぐったいような、兎に角、先刻から一向に集中できないのだ。
「おい」
「はい?」
見上げる位置にあるはずのほろりと零れる笑みは、とてもワイルドな男前 だなんて表現はできないな と軽く眉間を寄せながらも苦笑を零す。
「お前さ、先刻から何やってるの?」
こんな狭い場所でさ、と軽く唇を尖らせた国分たちが今居るのは、ハワイと日本を繋ぐジャンボジェットの中にある座席の一つである。
「実験っす」
ちょっとだけ鼻先に皺を寄せたしかめ面に、国分が多少呆れの混じった口調で肘掛けにおいた右手に顎を預けて、目の前で三角に折り曲げられた無駄に長い足を見下ろした。
「実験?」
「そうっすよ」
にぱあ、といった表現が似合うような笑みに、まずったかな と無意識に上肢が引くがそれよりも何の実験か聞きたい気持の方が僅かに勝ったらしく、国分は、何それ、と長瀬の言葉の続きを顎でしゃくるように促す。
「以前、番組でリーダーが言ってたじゃないですか」
ぐっさんのな、足がずっと膝に乗ってたんよ そう苦笑を浮かべながらそれを実践するように、山口の足を自分の膝の上に乗っけていた城島の姿が脳裏をよぎり、ああ、と僅かに頷いた。
「でもね、太一君」
無理なんすよ、どうやっても と言って、ひざ頭をがつりと膝掛けにぶつけた痛みにくしゃりと顔を歪める。
「そりゃ、お前、そんな野太い足がこんな隙間に入る訳ねえだろうが」
「でしょ、でしょ、リーダーや太一君の足ならわからないっすけど、絶対俺や山口君の足がこの隙間に入る訳ないんですよ」
そう握り拳で力説する長瀬に、俺の足ならっつうのは認めなくねえけどな、まあ、山口君の足が入る訳はねえよな とこの先の展開が見えそうな会話に閉じかけていた本にそろそろと手が伸びる。
「でもね、一つだけ方法があることはあるんですよ」
「方法?」
はい、と勢い良く答えると国分の腕が預けられている肘掛けを勢い良く引き起こすと、ね と屈託なく笑う。
「これなら俺やぐっさんの足でもちゃんと隣に座ってるリーダーの腿の上に足、乗っけられるんすよ」
すごいでしょ と、難しい算数の答を見つけた子供のような表情に、今度こそ国分は上肢を逆の肘掛けにぶつかる程にのけぞった。
「でも、そしたら、山口君とリーダーの間には肘掛けがなかったってことっすよね」
膝掛けが壊れてたんすかね? 両肘を組んで、小首を傾げた横顔に、国分はそれ以上考えるな、と心からの吐息を一つ零しながら、再び開いた紙面の上に視線を戻した。 「ほんと不思議っすよねえ」

Category

Story

サークル・書き手