今年、松岡が耳にピアス穴を3つ開け、男はやっぱり拠点がないとね とマンションを買った。
リーダーにのみ反抗期で、一緒にいたら気まずいだのしんどいだの言いながら、長瀬のリーダーいじりのコメントが雑誌やテレビの画面でよく見られるようになった。
松岡は山口に、『女だったら抱いて』と話、長瀬は松岡に『女優だったら抱かれたい』と笑った。
つくづく判りやすい奴らだよな。
今だって、と、次の仕事の準備をしながら、時折背後を振り返るツインタワーの後ろ姿に国分は薄い笑みを浮かべる。
年が一つしか変わらないのに、雑誌やテレビのコメントで『一人前の男』扱いされ、格好良いと称される松岡が羨ましい長瀬と、同じように甘やかしてるはずなのに、自然『相棒』として頼られている山口に憧れる松岡。
無意識のうちにその存在を追い掛けて、少しずつ少しずつ重なるその言動。 突き詰めれば、二人ともただその人に『頼って欲しい』という思いがその根っこにはある。
当然、山口君は気付いてるんだろうなあ、そう流した視線の先では、これで今日の仕事が終わりらしい元祖三十路コンビが着替えをしながらも、柔らかい笑顔で談笑している。
よくよく耳を澄ませれば、これから山口君がリーダーの上に押し掛ける算段になっているらしい。
目の前では自分と同じように聞き耳をたてている松岡が定番のように唇を突き出したアヒル顔で上着を羽織り、ちらちらと視線を流すのを隠しきれないままきゅっと唇をへの字に歪めた長瀬がそれでもそ知らぬ振りのまま鞄の中身を確かめている。
ほんっとうに素直というか、単純というか。それで隠せてると思ってるお前らが実に羨ましいわ と国分は片目を眇めた。
最も、それだけ分かりやすいお前らの気持ちが『あの人』に届いてるかっていうと、それはものすごい疑問というか、届いてねえって断言できるけどね と。
「リーダー、山口君、何、あんたら野郎二人でクリスマスでも祝おうっての?」
「そんなんちゃうけどなあ、こいつがな」
この間からローストビーフを作れ いうからな、と既に下準備は万端らしい城島が苦笑を浮かべながら国分を振り返った。
「けど、野郎二人だよ?」
世間に誤解されるよ と続ければ
「野郎二人でクリスマスに毎年温泉に泊まってる奴らよりはましでしょ」
と、にこりと笑う山口に、国分は先日の仕事で一緒だった可愛らしいという賞賛が似合いそうな二人組を思い出し、まあね と軽く頷いた。
「俺もこの後暇だからさ、それ、参加させてよ」
酒は買ってくよ という言葉に弾かれたように、一段深くなるねたような二対の視線に国分は小さく ふふん と笑う。
ま、人まね小猿をやってる間は、あの人に気持ちは届かないと思うけど? 特に、山口君を目標としている松岡はさておき、松岡が目標になってる長瀬の『想い』は、当分の間、空回りしそうだよな。 と、声に出すことなく呟くと、まだ、仕事のある末っ子たちに片手を挙げて、準備のできた二人の後を追いかけた。